山形県高畠町は「まほろばの里」と呼ばれます。「まほろば」 とは、古事記などにしばしばみられる「まほら」という古語に由来する言葉で、「丘、山に囲まれた稔り豊かな住みよいところ」という意味。縄文時代の遺跡や、数多くの古墳群は、この土地の豊かさを物語っています。四季折々の自然と三重塔が織りなす景観は絶好の撮影スポットにもなっている。
 平安時代、この地域は、関東から出羽国・置賜地方に入る際の玄関口となっていました。安久津八幡神社の起源は、貞観じょうがん2(860)年、東国に三千仏建立を志した慈覚大師が豪族・安久津磐三郎の協力で阿弥陀堂を建てたことに由来するといわれています。その後、平安時代後期(永承6(1045)年)に奥州・安倍一族討伐の命を受けた源義家が二井宿峠を越え、この地に入りました。ここで戦勝を祈願し、軍勢を立て直して大勝を得たことから、源氏の氏神である八幡神を鎌倉由比郷より分霊し、神社を建立してお祀りしたと伝えられています。

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 山形市内から国道13号を南進し、車で約50分(米沢市から北進し、20分)の高畠町。国道13号から、国道113号に入ってしばらく進むと、向かって左手の山すそに端麗な三重塔が姿を現します。駐車場から少し歩き鳥居をくぐると、左手に三重塔が静かに屹立しています。周囲に清水を巡らせた敷地に佇む塔を、間近から見上げると、複雑に組まれた軒組がはっきりと見え、造形の優美さに思わず見入ってしまいます。この塔は、当初、江戸時代前期の寛永2(1625)年に建造されましたが烈風で倒れ、現存するものは、その後、寛政9(1797)年に民衆の寄付により再建されたものです。建物の正面、側面共に柱の間が3間の「方三間造」で、銅板葺きの屋根が特徴。遠くからでも目を引くこの楼観は、まさに高畠町のシンボル的存在です。

 塔に気をとられて目線が上に向かいがちですが、石畳の参道に戻って、鳥居の足元を見ると気になるものが目に入ります。参道の両脇に横たわる大きな棒状の2本の石。「じじばば石」と呼ばれています。この石には、昔、お爺さんとお婆さんが「一昼夜で鳥居を建てる」と願を掛けたものの叶わず、諦めて置いていった、という伝説が残されています。

 さて、石畳の参道を奥へと進みましょう。少し進むと、まるで道を塞ぐように舞楽殿が立っています。舞楽殿は、三方が吹き抜けの「舞台」で、室町末期の建造といわれるもの。方一間、 宝形造ほうぎょうづくり(屋根形式のひとつで、4枚の屋根がすべて三角形)という独特の様式で建てられています。毎年5月3日に舞楽殿で小学生の女児による雅な倭舞が舞われる。

 毎年5月3日には「春の例大祭」があり、この舞楽殿などで、奈良春日大社と同系の舞といわれる「倭舞やまとまい」、「田植舞」が舞われます。鈴や扇を持ち、琴や拍子、笛の音色に合わせ、優美な舞を舞う巫女たち。皆さんにもぜひご覧いただきたい祭事です。秋の例大祭で舞われる延年の舞は県指定の無形民俗文化財にもなっている。

 また、9月15日には秋の例大祭が執り行われます。小学生の男の子達が舞う「延年えんねんの舞」は豊作、天下泰平、国家安全、参会者の長寿などを祈願したもの。県指定の無形民俗文化財に指定されています。秋の例大祭では、流鏑馬やぶさめも披露されます。

 舞楽殿を過ぎると、参道は一段と静寂さを増していきます。苔むして少し傾斜した道を進み、石段を登ると、三間社流造さんげんしゃながれづくり(正面側の屋根を長く伸ばす造り)、茅葺きの本殿に至ります。現存の本殿は、宝暦5(1755)年に再建されたものです。三重塔、舞楽殿、本殿の3つは県指定文化財。ほかに、境内では、鐘つき堂、千年松、流鏑馬的場跡など、神社の歴史を物語るものがそこかしこに見られます。外は陽光につつまれた明るくのどかな風景が広がりますが、緑色濃い鎮守の杜に囲まれた境内は、対照的に静謐せいいつな空気に満たされ、訪れた私たちは、しばしの間、外界の様々な物事から守られているような、不思議な安らぎを覚えます。

 境内を出て、遠景から一帯を望むと、花々に彩られた絶景が広がります。桜や菜の花が盛期を迎えるのは例年4月中旬ごろ。また、神社西側の山は5千本ほどのつつじで彩られ、桜が終わってもまた異なる景観が楽しめます。室町時代や江戸時代に建てられた木造建築を、建造された当時に思いをはせながら、春の花々とともにじっくり眺めてみてはいかがでしょうか。

隣接する公園には、自然と歴史をかんじられる見どころがいっぱい。

県内から出土した石器時代から中世までの石器や土器などが展示されている「県立うきたむ風土記の丘考古資料館」。建物の奥には、縄文時代の復元住居があります。5月上旬、考古資料館では「赤ちゃん手形」作り体験を開催。縄文時代の遺跡からは、赤ちゃんのものと思われる「手形・足形付き土版」が出土している。

 鳥居をくぐり境内を出て、さらに歴史をさかのぼってみましょう。

 神社と隣接する「まほろばいにしえの里歴史公園」には、県立うきたむ風土記の丘考古資料館や、復元された縄文時代の竪穴式住居、古墳があり、四季折々の花が咲く自然豊かな公園です。この辺りの土地の原風景を表現した「うきたむ」という言葉は、アイヌ語で「流動する湿地」を意味し、「置賜おきたま」の地名の由来ともいわれています。考古資料館には、語源となった大きな湿地「大谷地」にあった村のあと押出おんだし遺跡から出土した土器などが展示されています。湿地帯にあったため、保存状態が良く、中でも漆工芸の原点とも言われる「彩漆土器」など漆を使った土器は必見です。その他、考古資料館には、館の周辺に点在する安久津古墳群(鳥居町支群)に関するものなど、神社建立以前の歴史を物語る数多くの史料が収蔵されています。優美な丸味をおび、赤漆を地に黒漆で文様が描かれた、彩漆土器。「道の駅たかはた」の売店では、地元で採れた新鮮な農作物や加工品が並ぶ。

 歴史を十分堪能したら、ちょっとひと休みしましょう。

 歴史公園から道路向かいに渡ると、道の駅たかはた「まほろばステーション」です。農産物直売が人気で、春には山菜、初夏にはさくらんぼが店頭に並びます。生産量日本一を誇るデラウェアや美味しいワイン、ジャム、ドレッシングなどなど、高畠町自慢の産品が販売されていますので、旅のお土産探しにうってつけ、ですね。石切場を公園に整備した「瓜割石庭公園」では独特の景観が広がり、テレビドラマの撮影なども行われている。

 道の駅で休憩したら、おとなり宮城県の七ヶ宿町方面へ車で2、3分、足を伸ばして瓜割石庭公園うりわりせきていこうえんがおすすめです。大正12年から平成22年まで、町名産の石材として知られた高畠石の採掘をしていた「瓜割丁場ちょうば」の跡をみることができます。空に向かって垂直に伸びる岩は圧倒的な迫力で、見ごたえがあります。絶好の撮影スポットですよ。

700本の桜のトンネルを自転車で駆け抜けよう!

 高畠の旅の耳寄り情報をもう一つご紹介しましょう。サイクリング道として親しまれている「まほろばの緑道」。春には見事な桜の名所で大勢の人が訪れる。レンタサイクルを借りたり、サイクリングコースの起点にもなっている太陽館。おすすめのサイクリングルートが、名所とともにわかりやすく書かれたイラストマップ。太陽館や道の駅たかはた、観光案内所などで手に入る。

 車での移動では気づかない観光スポットが「まほろばの緑道」です。緑道は長さ約6km。 沿道に700本もの桜が植えられており、満開の時期になるとまさに「桜のトンネル」になります。ここは昭和49年に廃線となった地方電鉄「山交高畠線」の跡地を整備したもので、知る人ぞ知る、鉄道好きにもお勧めの場所です。車が通らないため安心して、のんびりとサイクリングを楽しめます。

 自転車は、JR高畠駅に隣接する「太陽館」で借りられます。おすすめのサイクリングコースは、太陽館を起点に、浜田広介記念館やまほろばいにしえの里歴史公園を巡って太陽館に戻るコース。サイクリングを終えて、太陽館の日帰り温泉でサッパリできるのもおすすめポイントです。コースは長さ15kmで、所要時間は各スポットの見学時間も含めて約3時間です。桜シーズンには、家族や友達と一緒に自転車で巡り、爽やかな風を肌に感じ、淡い色彩の景色を愛でながら、歴史ほとばしる「まほろばの里」を体感してみてはいかがでしょうか。取材協力・お問い合わせ

・高畠町観光協会 山形県東置賜郡高畠町大字山崎200-1 tel.0238-57-3844 http://www.takahata.info
・安久津八幡神社 社務所 山形県東置賜郡高畠町大字安久津2011 tel.0238-52-5990